犬の鑑札リデザインについて
日本では厚生労働省の定める「狂犬病予防法」に基づき、生後91日以上の犬を飼い始めた場合に必ず市区町村に登録をしなければなりません。その登録の証として保健所の窓口等で交付されるのが金属製のプレートでできた犬鑑札です。
2005年の「ただのいぬ。展」、2006年の「Do you have home?展」と、二度の大きな企画展を通じ、捨て犬や迷子犬の運命に光を当て、人と犬との関わり方を考えて来た「ただのいぬ。プロジェクト」は、本来日本に暮らす犬であるならば必ず着けられているはずの小さな「犬鑑札」に着目しました。
現在、捨てられたりや迷子になってしまった犬のなかで、年間約12万頭が、行政により致死処分されています。そのうちの半数以上は、この犬鑑札が着けられていないという理由から命を絶たれているのです。一方で、デザインがあまり好きではない、小型犬には大きすぎる、カチャカチャと音がしてうるさい、法律上の義務であることを知らないと言った理由で、犬鑑札の装着率は極めて低いのが現状です。
犬の致死処分に関わる施設の担当者から、「犬鑑札さえ着けてくれていれば」という言葉を何度も耳にしてきました。彼らの多くは獣医師資格を持つ公務員であり、犬の処分問題に最も心痛めているのもまた彼らなのです。
「ただのいぬ。プロジェクト」では、犬鑑札に対する認知を高め、少しでも装着率を上げるために、犬鑑札のリデザインについてキャンペーンを企画していました。折しも07年に厚生労働省より犬鑑札のデザインを各自治体で変更してもよいと言う通達があり、世田谷保健所と共同で世田谷区の犬鑑札デザインのリニューアルに着手したのです。企画に賛同していただいた工業デザイナーの深澤直人氏の協力のもと、アルミの無垢材を使ったシンプルでスタイリッシュな犬鑑札ができあがり、09年度の4月より世田谷区内で交付の運びとなりました。同時に世田谷文化生活情報センター 生活工房にて、07年に「犬の鑑札リデザイン展」、08年に「ただしいいぬ。展」を開催し、犬鑑札の重要性や登録の意義などについて考える展示をおこなってきました。
少しずつではありますが、各自治体で犬鑑札を変える動きが広まってきています。こうした活動から日本の犬たちを取り巻く環境が少しでも向上し、あらためて犬を愛する人たちの中に犬を飼うことの意味と責任が浸透していけば、不幸にも天寿を全うできない10数万もの命が、瞬く間に処分数0になると信じて疑いません。
日本に暮らすすべての犬たちに鑑札が着けられることを願い、ただのいぬ。プロジェクトは今後も様々な提案をしていきたいと考えています。
ただのいぬ。プロジェクト